1、作品のテーマ
現在の日本の子どもには真の青春期(葛藤期)がないというのが、私の直感である。
あまりにも幼い内から親の強烈な干渉と囲い込みの中で成長し、長じては学校という巨大な権威に組み込まれて教育信仰の一元的な価値観を押し付けられ、少ない余暇にはバーチャル幻想の孤独なゲームばかりに埋没して、自由で主体的な精神の発達が阻害されている。
子どもたちにもっと自由にたくましく育ってほしい。これがこのミュージカルのテーマである。
大人の誰もが、「子どもを大切に思っている」と思い込んでいる。しかし子どもの何を大切にしているのだろう?
「子どもの心の奥の本音に耳を傾けろ」と主張したい。その契機として、子どもの権利という概念を取り上げたいと思う。子どもの権利を話題にすると、必ず論議になる。権利というものを本音で理解できない日本人の特性と、親としてのエゴとの絡みが浮き立つからである。その点では、子どもの権利の実現というよりも、そうした議論を通して、大人の一人一人がじっくりと子どもを見つめ直してもらえたらいいと願っている。
2、“ダッハレム”とは?
一幕の舞台となるのは、南アジアにある発展途上国“ダッハレム”である。
もちろん仮想の国である。イメージとしては、インドやバングラディッシュのようでもあり、ミャンマーやラオスといった国でもあり、インドネシアでもありフィリピンでもある。いはばエスニックな異国情緒が混在した国である。特定の国をイメージさせる必要はない。
特定の民族衣装を必要としないし、使用する楽器や曲調や音色も、ある土地を特定する必要はない。音楽的イメージを強調すれば、アジア的な楽器の音色や曲調を混在させてロックやバラードで仕立て上げるといった感じか。
出演する子どもたちには、髪を切ることを禁じる。なるべくボサボサ頭にして、薄汚いTシャツや短パンを着させる。
3、舞台美術
舞台いっぱいに、小高い山の山腹が見える。固定される。
それが、建築残土の山である“行徳富士”から、フィリピンのマニラ郊外にある“スモーキーマウンテン”へと変化していく。
この変化は、観客の注視する中で、ゆっくりと変化していく。地面からも空からも、ゴミ、ゴミ、ゴミが臭い立つばかりに出現する。自然発火の煙たなびく中に、ゆっくりと湧き起こってくる気力なき幽霊のような集団はゴミ山で生活する子どもや大人たち。苦力や農奴にも似た絶望的な世界に耐える人々の悲惨で過酷な生活を躊躇することなく表現したい。
また、一幕の後半では、そこが腐敗した大都会“ラングリエ”の市場や歓楽街ともなる。吊り物パネルなどを利用して、混み入った街路の壁や猥雑な市場街の雰囲気を出したい。舞台のあちこちに放置されている布、ダンボール箱やボロクズの中には、ストリートチルドレンが隠れている。それが一気に動き出すのである。
見せ掛けの舞台いっぱいのゴミは、どのように見えて、また消えていくだろう? 舞台美術家の腕の見せ所である。
二幕では、大量のゴミはなくなる代わりに、日本の家庭四箇所と市川行徳辺りの駅前風景が、基本舞台を崩すことなく表現されねばならない。例によって舞台展開は素早いので、どのような舞台セットになるか楽しみである。
4、音楽とダンス
エスニックな異国情緒をたっぷりと味わいたい。ゆっくりとした展開と強烈なリズムによるエネルギッシュな展開とを併せ持ちたい。
今回は、従来のエレクトーン2台、キーボード1台、ドラムパーカッションを中心とした楽器に早川教授の軽快なバイオリンを引き立てるようにしたい。彼はひょっとしたら屋根の上のバイオリニストのように、舞台に登場しても面白い。また、エレクトーンがどこまでの音色に挑戦できるか不明だが、民族楽器の音色が混じれば嬉しい。
M14のストリートチルドレンによるストリートダンスは、子どもたち自身による打楽器演奏(竹、石油缶、ドラム缶、ペットボトル、といった廃物を利用して作った即席楽器を使用)をプラスさせて、ダンスはバンブーダンスやケチャを中心に展開したらどうかと思う。
5、照明
いつものパターンである。濃淡と陰影の明確なシャープな光を期待したい。ムービングライトやロスコーマシンは使用する。アジアンブルーの鮮やかな青と戦乱・歓楽・猥雑の赤、そして荒廃の茶褐色とを強烈に対比したい。
6、子どもの演技
今回は本格的な子ども演技への挑戦である。小学3年生から20歳ぐらいまでの年代による演技を組み立てる。時間は相当掛けねばならない。男の子がどれだけ出演するか、またストリートチルドレンが持つ荒廃した刹那的なたくましさが表現できるか不安だが、子どもの内面を引き出す稽古を重ねたい。
2008年03月20日
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