2009年04月10日

三文役者

父の部屋で本棚に並ぶスクラップを見ていた男の子が「へえ、お父さんは役者なんだ」と驚いています。傍の姉は、父の話題を嫌います。パート仕事に忙しい母に生活の苦労を押し付けて、父を無責任な怠け者としか見えていないからです。

お父さんが帰ってきました。普段はあまりしゃべらないお父さんも、息子にせがまれて、「ちょい役ばかりの売れない三文役者だが、ハムレットをやりたい夢があって、いつまでも芝居を諦めきれない」と語ります。

ある日、そのお父さんにハムレットのオーディションが転がり込んできました。意気盛んに受けたオーディションで、ハムレットの役についたのは映画スターでした。お父さんはやはり下僕の役です。
それでもお父さんは喜び勇んで稽古に参加します。ちょい役ですから、上役の灰皿を洗ったり、いろいろとこき使われます。稽古が進んで本番の幕が開きます。生活に忙しい家族は見に行こうとはしません。

上演中のある日、ハムレット役の映画スターの撮影が延びて、明日は公演中止かという事態になります。あわてるプロデューサーたち。そんな中で、ある先輩役者がお父さんを推挙します。お父さんがハムレットのすべての台詞を覚えている、舞台袖でいつも口ずさんでいたことを知っていたからです。プロデューサーの前での臨時のオーディション。お父さんは見事に演じて、臨時のハムレット役に決まります。

家族は大喜び。花束を持って、初めてみんなでお父さんの晴れ姿を見に行くことになります。翌日の楽屋。そわそわといつもの雑用をこなすお父さんに、先輩役者が言います。「ハムレットなんだから偉そうにしてろ」。

すっかり衣装もメークも付け終わって出番を待つお父さんに、どよめきが聞こえます。映画スターが間に合ったのです。
家族が見つめる前で幕が開いた舞台では、お父さんはやはり下僕の役でした。家族の悲しい顔。

万来の拍手の中で幕は閉じます。観客席の家族は、「せっかくだから、お父さんと一緒に帰ろう」と待っています。恥ずかしそうな表情でお父さんがやってきました。無言の家族。舞台には誰もいません。

お父さんは言います。「俺のハムレットを見てくれ」。お父さんは一人でハムレットを演じ始めます。
楽屋ではまだ大勢の下役の俳優が酒盛りで残っていました。舞台から聞こえる声に怪訝な表情で反応します。「一体どうしたのか?」。先輩俳優が覗くと、舞台で一人ハムレットを演じているお父さんの姿がありました。観客席ではジーッと見つめる家族の姿も。先輩は、合いの手で答えて、舞台に登場します。お父さんお相手役を勤めるのです。次々と仲間の下っ端俳優たちが登場します。お父さんの驚きと興奮。見事に演じきって、ハムレットの死の場面を迎えます。家族の大きな感動の拍手とともに、舞台は幕を閉じます。

これは、先日あるプロデューサーから聞いた又聞きの台本。韓国の作家が書いて、有名になり、今映画化の話もあるようです。
どうですか?
こういう台本が書きたい。
posted by ヨッシー at 02:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 未分類
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